医療従事者の方へ

学術講演、テキスト作成の留意点
―トラブルに巻き込まれないために―

1 学術講演、研修用テキストの意義について

  1. 学会発表や学術講演は、会員の先生方が日ごろ取り組んでいる学術研究の成果を公表する「晴れ舞台」です。研修用テキストは、研修を通じて学術研究の成果を次の世代に引き継ぐための「箱船」です。
    いうまでもなく、学術研究は「Standing on the Shoulder of Giants(巨人の肩の上に立つ)」ことです。貴重な先人の業績の上に成り立っています。学術講演、研修用テキストは、この先人の業績に相当するものです。
  2. 以上のとおりですので、学術研究では、先人の業績、具体的にいえば、学術講演、研修用テキストの内容を参考にすることは、必要不可欠です。それゆえ、学術講演、研修用テキストの作成に当たってこれらの内容を紹介するあるいは取り入れることは、むしろ当然の事柄です。
  3. ただこれは、どのような方法で紹介し、または取り入れても良いという意味ではありません。著作権その他の法的な権利を侵害することは許されません。また、ねつ造、改ざん、盗用といった研究不正/論文不正を行ってはならないことは当然です。
  4. 特に、著作権に関しては特許権等とは異なり、法律による保護を受けるために登録等をする必要はありません。
    そのため、著作権があるか否かは必ずしも明らかではありません。学術講演、研修用テキストの作成をした後で、著作権があるとは考えなかった、知らないうちに著作権を侵害していたという事態が起こりえます。
  5. 学術講演、研修用テキストの作成等に当たり、会員の先生方が無用なトラブルに巻き込まれることがないようにするために留意していただきたい事柄について、以下ご説明します。

2 学術講演、研修用テキスト等の作成に当たって留意すべき事項

会員の先生方が学術講演、研修用テキスト、その他の印刷物(以下テキスト等)の作成をする場合、次の事項にご留意ください。

  1. 次のアないしウに掲げるものの著作権は、当学会に帰属します。当学会はこれらを、無償で複製、頒布、公衆配信、その他の方法で利用することができます。あらかじめご了承ください。
    ア 発表される論文、学術講演をする先生方より提供を受けるワード、パワーポイント、その他の資料にかかるデータ
    イ 先生方によって作成される研修用テキストに掲載される文章、図画(グラフ)、表(データを集計したもの)、写真(動画を含む)
    ウ 学術講演の際に撮影される音声及び画像(以下記録映像)
    日本骨折治療学会学術集会に提出する学会発表用スライドに関しては、演者の発表内容を他人が流用しないようにするため、一旦、学術集会側に著作権を預けていただくことになります。学術集会終了後はその他の学会での発表や骨折誌、その他の雑誌にこの発表を論文として投稿することは問題ありません。
  2. 前号のア及びイに掲げるもの(以下これらを論文資料等)の作成に当たっては、他人の権利または法律上保護される利益(著作権、意匠権その他の知的財産権を含み、かつ、これらには限定されません。)(以下これらをまとめて「権利等」といいます。)を侵害しないよう、細心の注意を払わなければなりません。  例えば、インターネットで自由に閲覧できるまたは既に公表されている論文や書籍に掲載されている写真、図画であっても、基本的にはその撮影者、作成者等が著作権を有しています。更に、患者さんが写っている写真を利用または掲載することは、当該患者さんのプライバシー権に抵触する可能性があります。
    論文資料等の作成に当たって写真、図画を利用または掲載するときは、④に記載されている場合(「引用」として許容される範囲及び条件を満たす場合)を除いて、著作権者の許諾を受ける必要があります。写真を利用または掲載するときは、著作権者の許諾を受けるとともに、当該患者さんの許諾を受ける必要もあります。
  3. 学術講演の様子を許可なく撮影することや配信された講演を録画することは、演者(座長その他の登壇者を含みます。)や講演の参加者の権利等を侵害する行為です。くれぐれもお止めください。
  4. 論文や教科書に関しては、既に公表されているものについては、「引用」して利用することができます。この場合、著者(著作権者)の許諾は不要です。 ただ、許諾なく利用することができるのは、あくまでも「引用」として許容される範囲及び条件を満たしたものに限定されます。どのようなものでも「引用」であれば利用してもよいということではありません。慎重な対応が求められます。
    「引用」として許容されるためには、例えば、「引用」であることがはっきり読み取れるよう、書き方を工夫する必要があります。あくまでも必要最小限度の範囲にとどめる必要もあります。もちろん、「引用」した内容の出所(出典)を明示する必要もあります。
    なお、適切に「引用」しない場合、研究不正/論文不正の問題(ねつ造や盗用)となる可能性があります。この点も、十分に注意をしてください。
  5. 論文資料等の作成に当たって、インターネットで自由に閲覧できるまたは既に公表されている論文や書籍に掲載されている図画、表に修正や加工をしたものを用いる場合にも、慎重な配慮が必要です。
    もとより、誰が書いても/作っても同じになるようなものであれば、著作物とはいえません。ただ、修正や加工をして用いようと思うということは、そこに何らかの価値(例えば、美しい、分かりやすい、よくまとまっているなど。)があるからだと考えられます。単純な統計数値の羅列であっても、その数値の選択の方法に工夫があることもあります。
    そこで、この場合も、④に記載されている場合(「引用」として許容される範囲及び条件を満たす場合)にとどまるよう工夫をするか、あるいは、著者や作成者に連絡をしてその許諾を得ることをお勧めします。

3 当学会が管理する記録映像、論文資料等の利用に当たって留意すべき事項

会員の先生方を含め、記録映像、論文資料等の利用をしようとする場合、次の事項にご留意ください。

  1. 演者となった先生を除き、記録映像の利用は許諾しておりません。
  2. 演者となった先生が記録映像を利用しようとするときは、事前に事務局にその旨をお知らせください。
    事務局において、他の演者の同意を得るほか、講演の参加者の権利等を侵害するおそれがないかどうか確認したうえで、その利用を許諾します。なお、質疑等の内容によっては全部または一部の利用が許諾されないことがあります。あらかじめご了承ください。
  3. 学術研究(医学教育を含みます。)の目的で利用をする場合を除いて、論文資料等の利用は許諾しておりません。市販される書籍その他の印刷物に論文資料等の内容を転載することは、販売される書籍その他の印刷物の種類、内容等によっては、商業利用となります。事前に事務局にその旨をお知らせください。
  4. 会員の先生方が自ら演者となる場合を除き、教育セミナー、講演会等の際に論文資料等のコピーを配布することは許諾しておりません。
  5. 会員の先生方が自らが演者となる教育セミナー、講演会等の際に論文資料等のコピーを配布しようとするときは、当学会の委託先(メディカルオンライン)の文献サービスを通じて印刷物を入手することができます。このサービスは有料です。
  6. 学術研究目的の利用であるか商業利用であるか不明である場合は、事務局にお問い合わせください。

4 よくある質問 FAQ

  1. 日本骨折治療学会の出版物に掲載されたA教授の論文を、大学の授業の教材として利用したいのですが、大学の教室で複製して配付することは可能でしょうか?
    A:教育目的の利用であれば、著作権法第35条(注釈1を参照)の「学校その他の教育機関における複製」にあたりますので、著作者の許諾なく、複製することができます。
  2. 日本骨折治療学会の出版物に掲載されたA教授の論文を、第三者が、大学病院ではない病院内の研修でテキストとしてそのまま使用することは可能でしょうか?
    A:著作権法第35条の「学校その他の教育機関における複製」に該当しないので事前に、学会および著作者の了解を得る必要があります。
  3. 骨折治療学会の出版物(骨折)に掲載された記事を複写して、問題集を作り、販売したいのですが可能でしょうか?
    A:著作権法第35条の「学校その他の教育機関における複製」に該当しないので事前に、学会および著作者の了解を得る必要があります。
  4. 日本骨折治療学会の出版物に掲載されたA先生の論文にある画像を骨折治療学会の研修会のテキストに使用することは可能でしょうか?
    A:骨折治療学会関連の研修会の場合は教育目的の利用であり、著作権法第35条の「学校その他の教育機関における複製」にあたりますので、著作者の許諾なく、複製することができます。
  5. 日本骨折治療学会以外の出版物に掲載された記事の一部あるいは図面を、自己の発表や論文の本文中で引用したいのですが、どのような点に注意すればよいでしょうか?
    A:著作権法で正当な範囲において引用することは認められています。 一般に引用するには、引用するに際して必要な要件は注釈2をご参照ください。出所(記載例:著作者名、書名(題号)、雑誌名、巻、号、ページ、発行年など)を明記することなどが必要とされています。
  6. 私的利用のための印刷とはどこまで許可されるのですか?
    A:金銭授受の発生しない個人利用目的で印刷することのみ許可されます。具体的には専門医試験や学位論文などの申請に使用するなどです。また、論文データを自身のブログやSNS、自院の宣伝広告などにてインターネット上で公開することは、広く第三者の目に触れる可能性がありますので、学会に申請し許可を得る必要があります。
  7. 企業主催のセミナーで論文データの印刷物を配布したい場合はどうすればいいですか?
    A:電子データから紙媒体の複製は、本学会が委託契約しているメディカルオンライン https://mol.medicalonline.jp/ 文献サービスを利用してください。ただし「電子データ→電子データ」の複製は委託先では関与しておりませんので、その場合は学会事務局に別途申請してください。
  8. インプラントの写真や図を使用したいのですがどうすればよいでしょうか?
    A:各メーカー、雑誌に各個人が規約に従い転載許諾の手続きを取る必要があります。
  9. 国外の論文・著書を和訳した際は、どのような扱いとなるのでしょうか?
    A:例えば、米国のA教授が執筆した英字論文は、A教授が、著作権の一内容である翻訳権を有します(日本の著作権法では27条に規定されています)。したがって、日本人のB教授がそれを和訳しようとする場合、著作者であるA教授の許諾を得る必要があります。
    もっとも、A教授の許諾を得て和訳した日本語の論文は「二次的著作物」となり、原著作者であるA教授と和訳したB教授の双方が、著作権を有することとなります(著作権法28条)。
  10. 国内および海外の他雑誌にまだアクセプトされていない論文を「骨折」に投稿する場合は二重投稿になるのでしょうか?
    A:他の雑誌に投稿中の論文は二重投稿となりますので雑誌「骨折」には投稿できません。 Proceedings としての投稿であれば投稿可能です。その場合二重投稿同意書は必要ありません。「骨折」にアクセプトされていないものだけでなく、既に日本語でアクセプトされたものを英語にして投稿する場合も二重投稿になりますのでご注意ください。
  11. スライド内に、他者が作成したイラストや、古典の絵画などを、挿入することは可能でしょうか?
    A:他者が作成したイラストや古典の絵画は、通常、著作物に該当するので、無断で挿入することはできません。但し、
    (1)当該他者の承諾を得た場合
    (2)承諾を得なくとも「引用」(著作権法32条)の要件を充足しながら「引用」をする場合、
    (3)著作権が消滅している場合
    には、許諾を得ずして挿入することができます。
  12. ホームページに掲載されている文章やイラストを、自分の勉強のため、ダウンロードしたり、プリンターで打ち出したりすることは、著作者に無断でできますか?
    A:ホームページに掲載されている著作物をダウンロードしたりプリンターで打ち出したりする行為は、一般に著作物の複製に該当します(第2条第1項第15号)。著作者は複製権を有していますので、利用者は、著作者の了解がないと、著作物を複製できないことが原則です。しかし、個人的な勉強のために複製する場合は、私的使用のための複製に該当し、著作者の複製権が及ばないことになっています(第21条、第30条)。
  13. YouTubeを利用する場合、どのような点に注意が必要ですか?
    A:YouTubeの内容が著作物に該当する場合、それを引用するときは、出所を明示する必要があります(参照:海上保安庁YouTube運用方針より)。

注釈1. 「著作権35条」

学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、公表された著作物を複製し、若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあっては、 送信可能化を含む。以下この条において同じ。)を行い、又は公表された著作 物であって公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該複製の部数及び当該複製、 公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合はこの限りではない。

注釈2.「引用」

「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。」(法第32条第1項)。即ち、「引用」の要件を充足すれば、著作者の承諾なく、当該著作者が創作した著作物を利用することができます。

*引用する際に必要な要件

ア 引用対象著作物が、既に公表されている著作物であること
イ 明瞭区別性(自身の著作物と、引用対象著作物が、明瞭に区別されていること)
ウ 主従関係(自身の著作物が「主」であり、引用対象著作物が「従」であること)
エ 「出所の明示」が必要

以上内科学会ホームページ学術講演を行う際の著作権に関するQ&Aより一部改変して引用しております。ご不明な点がございましたら学会事務局にお問い合わせください。

★学会等でスライドを作成する場合には、著作権に配慮し、引用元を明記するようお願いします。

2023年1月26日