東北大学 整形外科
有野 敦司 先生
このたび、日本骨折治療学会と韓国骨折治療学会による Travelling Fellowship Program に参加させていただきました。日本からは私と高原先生の2名、台湾から2名が参加し、臨床・研究に関するディスカッションに加え、食事や移動の時間も含めて、国やバックグラウンドを越えた交流を深めることができました。
日程は以下の通りです。
韓国の外傷センターの現場を間近に見学し、自身の診療・研究、そして今後のキャリアを見つめ直す大変貴重な機会となりました。以下に、印象的であった点を中心に報告いたします。
Ajou University は、骨盤骨折だけで年間200件以上を扱う大規模な外傷センターであり、外傷専任の整形外科医が5名在籍しています。専用の外傷棟には約100床が確保され、そのうち約60床が ICU であるなど、日本ではなかなか見ることのできない、外傷診療に特化した体制が整えられていました。 ストライキの影響でレジデント数が限られた状況下でも、病棟や手術が滞りなく回る効率的なシステムが印象的でした。ホストのWon Tae Cho先生には、終始温かく迎えていただきました。ご多忙の中、手術のポイントや治療方針を丁寧に解説してくださり、カンファレンスや食事の場でも気さくに接してくださいました。責任ある立場でありながら、常に周囲への気配りを忘れない姿勢に感銘を受けました。 見学させていただいた主な症例は以下の通りです。
Guro Hospital には、数多くの感染性偽関節や難治性骨折が集約されていました。 感染症例に対して、術中迅速検査や培養結果に基づくシステマチックなプロトコールにより、チームとして統一された治療が行われている点が印象的でした。 Jong Keon Oh 教授は、どの症例に対しても妥協のない姿勢で臨んでおられ、その説明の一つひとつが非常に誠実で、拝聴していて背筋が伸びる思いがしました。手術手技の工夫だけでなく、「若い医師にどう伝えるか」「どうすればチームで高いレベルの治療を均てん化できるか」を常に意識されており、教育への強い熱意が伝わってきました。 また、「英語で学び、英語で情報発信していかないといけない」と繰り返しおっしゃっていました。自分自身の英語力や準備不足を痛感すると同時に、研鑽を積まなければと前向きな刺激をいただきました。
見学を通じてまず感じたのは、症例の集積度の高さでした。骨盤骨折や難治性骨折が高度に集積しており、非常に効率的に研鑽を積める環境であることが、正直うらやましくもありました。一方で、病院の集約化がここまで進んでいるがゆえに、釜山ですら骨盤骨折の手術を行える医師がおらず、水原まで患者さんが紹介されている現状を伺い、患者さんやご家族の負担の大きさも同時に痛感しました。
また、レジデントの間は執刀機会が乏しいことに加え、徴兵制度の影響もあり、自立した術者になるまでのハードルがかなり高そうだという印象も受けました。一定の経験を積んだ段階で集中的に執刀機会が与えられるスタイルは、安全性や質の担保という点では優れている一方で、下積み期間が非常に長いことは良し悪しがあると感じました。
経済的には韓国でも、手術を続けるよりも開業のほうが有利なようで、外傷外科医として大学病院等に残り続けることは決して容易ではないようでした。それでもなお、高度外傷医療の現場に残り、診療・教育・研究に取り組んでいる先生方の姿勢には、頭が下がる思いでした。
今回ご一緒させていただいた高原先生からは、外傷治療の考え方だけでなく、日々の臨床をいかに研究につなげていくかといったお話まで、道中を通じて多くのことを教えていただきました。この場を借りて、改めて感謝申し上げます。
今回の Travelling Fellowship では、韓国の高次外傷センターにおける最前線の診療を肌で感じるとともに、KOTIC学術集会で世界レベルの発表に触れることで、自らの臨床・研究・キャリアを見直す大変貴重な機会をいただきました。 このような機会を与えてくださいました日本整形外傷学会ならびに関係各位の皆様、温かく迎え入れてくださった Ajou University および Korea University Guro Hospital の先生方に心より御礼申し上げます。また、道中を通じて多くの示唆を与えてくださった高原先生、そして今回の派遣を快く送り出してくださった東北大学整形外科教室の諸先生方に、深く感謝申し上げます。
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