おゆみの中央病院 整形外科 人工関節・関節機能再建センター
中嶋 隆行 先生
2023年4月24日から5月3日まで韓国骨折治療学会(KFS)のTrauma Traveling Fellowship Programに参加いたしました。Programは前期、第49回KFS meeting(江西のMayfield Hotel Seoul)、後期の日程で開催されました。私は前期が大邱の啓明大学東山病院(Dongsan Medical Center Keimyung University)、後期も大邱の慶北大学病院(Kyungpook National University Hospital)でしたので、ソウルと大邱を行ったり来たりする旅となりました。
啓明大学東山病院は、韓国随一の美しく広大なキャンパスの一角にある、最先端のsmartな病院で、韓国ドラマの舞台そのままのおしゃれな感じに驚きました。大学の国際研修プログラムの一環として受け入れていただき、予防接種や感染症の事前確認の必要がありましたが、手術に助手として参加する機会を得ました。骨折・外傷治療だけでなく、韓国股関節外科の権威Prof. Min Byung-woo(ミン先生)には、重篤な不安定型転子部骨折に対するTHA(セメントレスTHAとセメントとワイヤリングを駆使した大転子周囲の再建)、韓国最速のTKA術者 Prof. Bae Ki-cheor(ぺ先生)には午前中で4件のTKAに参加させていただき、先生方と同じく人工関節と骨折外傷を専門とする私にとって、大変貴重な経験となりました。
病院や医局の案内、毎晩の懇親会ではProf. Kim Beom-soo(キム先生)、若手のホープDr. Choi Byung-Chan(ビョンチャン先生)に大変お世話になりました。韓国の整形外科事情、医師のキャリアデザインなどを深く伺うことができ、新進気鋭の若いProfと向上心にあふれる若手には大変刺激をいただきました。
前期最終日には、啓明大学東山病院、慶北大学病院のスタッフ、traveling fellowが集まってFlorida Atlantic UniversityのProf. Stephen M. Quinnanの骨欠損治療の最前線の講演と大邱組の合同懇親会を開催していただきました。
翌日はLeeds UniversityのProf. Giannoudisの骨盤および臼蓋骨折術後の合併症の管理の講演を聴講し、KTXでKFS学会会場へ移動しました。
49th KFS meetingはKorea University Guro HospitalのProf. Oh Jong-keonが学会長を務められ、盛大に開催されました。日本からも多くのJSFRの先生方が参加・発表され、49th JSFRの学会長である最上敦彦先生の招待講演がありました。私達fellowも無事発表を終えましたが、いずれの会場も満席かつ活発な討議がなされており、韓国の地にてリアルな学会が復活したことを実感しました。
学会終了後、後期のprogramのためにJSFRからのfellowとしては一人、再び大邱へ戻りましたが、復路はKTXではなくバスでの高速道路280kmの移動となりました。6時間のドライブ、高速道路のパーキングエリア、市街地のコンビニを経て大邱のホテルに到着し、フロントに「ワッソヨ(ただいま)」と言った時には、すっかり大邱に里心がついたことに気が付きました。翌日は日曜日、翌々日の月曜日はMay dayのため休日であり、慶北大学病院の先生のおすすめもあって2日間で大邱と釜山観光を行いました。
前期は朝6時30分のホテルピックアップから深夜までスケジュールがびっしりであったため、市街地の観光する余裕もなく気が付きませんでしたが、我々の滞在したホテルは歴史ある韓方市場・薬令市のど真ん中で、韓国の3大聖堂の内のひとつに数えられる桂山聖堂のとなりでした。せっかくですので、私の大邱攻略ルートを提示しておきます。E-world→大邱83タワー→アプサンケーブルカーからのアプサン展望台→アプサン登頂。下山して西門市場で大邱の名物でもあるナプチャクマンドゥ(ぺっちゃんこの餃子)と、マクチャン(ホルモン焼き)とブルタッ(鶏のピリ辛炒め)。大変大邱を満喫できました。
後期の慶北大学病院整形外科はProf. Oh Chang-Wug(オー先生)、Prof. Kim Joon-woo(キム先生)率いる“部隊”でした。朝7時からの総合カンファレンスは、research meetingであり、脊椎、関節、外傷の各チームから質量共に十分なスライドが用意されていました。8時からは部屋を移動し、外傷チームのカンファレンスとなりましたが、ここでも厳しい質疑応答、指示が飛び交っていました。
手術室ではマネージメントが素早く的確で、チーフが手術の進行状況を見ながら、入室時間、手術機械、スタッフの手配を行っていました。緊急事態発生時には、彼によって当日緊急手術や対応が決められていきました。そのため両教授は斜めに手術室を移動し、執刀を連続していました。寛骨臼後柱後壁骨折が終わり、大腿骨顆上粉砕骨折、足関節脱臼骨折の手術を終え、次は下腿骨幹部骨折かと思ったら脂肪塞栓症候群合併など、難症例を的確にこなしていくtoughなチームプレーに驚きました。最後には「用意しておいたぞ」と慢性骨髄炎、下腿長範囲骨欠損後のMasquelet's induced membrane techniqueの最終固定(髄内釘+骨移植)を見せていただきました。まさに教科書的な手術工程を目の当たりにできたことは、貴重な経験となりました。Fellowship programの最後はチーフとチメク(치맥;フライドチキンとビール)で締めました。
今回のfellowshipのバディは帝京大学外傷センターの鈴木卓先生、乾貴博先生でした。また大邱組の同志である、兵庫県立はりま姫路総合医療センターの圓尾明弘先生、埼玉医科大学総合医療センター高度救急救命センターの森井北斗先生とも、たくさんの議論を交わすことができました。先生方が研修の中で積極的に海外、韓国の教授やスタッフと議論を交わす姿勢は本当に尊敬でき、研修、トレーニング、宴会を共にできたことは、今回のprogramの中でも最高の思い出となりました。韓国最高峰の整形外傷病院で感じたことを、これからも共に発信していけたらと思います。
最後にこの素晴らしいfellowship programに参加させていただいた骨折治療学会関係者の皆様、快く送り出してくれたおゆみの中央病院の皆様に御礼申し上げます。