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フェローシップ

韓国・台湾 fellowship program レポート

Korean Fracture Society and Japanese Society for Fracture Repair travelling fellowship program in Korea
Korea University Guro Hospital, Seoul 訪問記(前編)

神戸大学大学院医学研究科外科系講座整形外科学
准教授 新倉隆宏

 KFS (Korean Fracture Society)とJSFR (Japanese Society for Fracture Repair)の人的交流の一環として2017年度から始まったtravelling fellowshipの第2回に参加させて頂きました。今回は東京医科歯科大学の王耀東先生と私の二人が参加しました。Korea University Guro Hospital (Seoul)とKyungpook University Hospital (Daegu)の2施設を訪問させて頂きましたが、私は前半のKorean University Guro Hospital (Seoul)訪問記を担当させて頂きます。

 Korea Universityは漢字では高麗大学、Guroは漢字で九老と書くそうです。GuroというのはSeoulにおける一地区の名称です。Korea University Guro Hospitalは、高麗大学の3つある附属病院の1つです。2018年4月18~20日の3日間訪問させて頂きました。近代的な、きれいな病院という印象を持ちました。

 この施設の外傷のChairmanはJK Oh教授です。二つ目の訪問先であるKyungpook University Hospital (Daegu)のトップはCW Oh教授で、どちらもOh先生ですが、お二人とも韓国の外傷界ではbig nameであることを、今回のfellowshipとKFS学会参加で身をもって感じることが出来ました。
 JK Oh教授の印象は、偉い人なのにとても気さくに話しかけて下さる方、若々しく活気にあふれた明るい方、というものでした。トップのJK Oh教授の秘蔵っ子、懐刀と思われる二番手がJW Cho先生でした。JW Cho先生は私より年下でしたが、近年数多くの英文論文を執筆なさっており、JK Oh教授の次にトップに立つ方とお見受けしました。とても親切な、謙虚な、聡明な方でした。このお二人がAttending (Consultant) surgeonでした。韓国では大学病院など大きな施設では執刀は教授と二番手というように、非常に限られた医師だけがするようです。少なくとも訪問した2施設ではそうでした。
 Korea University Guro Hospitalの整形外傷チームは、このお二人に加えてフェロー 2名、レジデント4名で構成されていました。全員が親切にして下さり、二日目にはわれわれフェローを全員で地元のKorean BBQのお店でもてなしてくれました。
 その食事会の後、フェローやレジデントは今から救急患者を診ないといけないとか、業務がまだあるからと病院に帰っていき、JW Cho先生も含めてでしたが、若手は大変そうだと思いましたし、その大変な中で全員が集まって食事会をして下さったことに深く感謝しました。

 手術を見学させて頂き、興味深かったことを紹介致します。
 JK Oh教授のお好みの手法のようですが、ミニプレート(手足用のプレート)による整復位保持、provisional fixationを、骨盤でも足関節でも膝蓋骨でも、どこの部位にも頻繁に適用なさっていました。ミニプレートの上に、あるいはその傍にメインプレートを置いて最終固定をするという、非常にユニークな方法だなと思いました。大腿骨転子部骨折には、全例ロングガンマネイルで遠位横止めなしという手術を行っているとのことでした。これで何百例もやって問題ない、非常に低侵襲な手術だとおっしゃっていました。ガンマネイルでさえ、若手が執刀ではなく、JK Oh教授が執刀なさっていました。
 その他印象的だったこととして、術中写真を天井のカメラも利用して非常にたくさん撮影する、整復過程など透視画像も全て記録し、後でどんな手術だったかカルテで見られるようにしているということがありました。後で振り返りができる、また、若手に教育するとき見せてあげられるので良いことだと思いました。
 レジデント、フェローは執刀前の準備、術野作成など、きびきびと動きます。彼等には執刀機会が無いので、日本の若手医師は恵まれているんだと思いました。その他、術野作成時の消毒、ドレーピングを時間をかけてしっかりやる、イメージを側面にするとき覆布を頻繁に替えるなど、感染へのケア度が高いと感じました。

 教授の外来を見学しましたが、サポート体制が万全でした。検査オーダーなどは全て看護師に口頭指示すればやってくれます。フェロー1名、秘書1名が付き、秘書が全患者の臨床写真撮影を担当していました。ですから、一人にかける時間がとても短くて済み、効率的に外来診療が進んでいきます。手術症例のフォローアップが多数なされていたのに加え、驚いたのはごく単純な骨折の保存的治療も教授が多数担当なさっていたことです。
 また、Korea University Guro Hospitalには韓国中から骨折手術後感染、慢性骨髄炎、偽関節、変形など複雑な症例が多数紹介されてきているようでした。これらの症例には近年はMasquelet法を第一選択として治療されているようで、今回訪問中にはその手術は無かったものの、彼らがPD cultureと呼んでいるpost-debridement culture、つまり自分がデブリ仕切ったと思っている組織の細菌培養検査を行い、この結果によって再建のステージに進むかどうかを決めるという方針はとても勉強になりました。

 このように、骨盤・寛骨臼骨折、多発骨折など難度の高い新鮮外傷の手術治療、加えて韓国中から紹介されてくる骨折手術後感染、慢性骨髄炎、偽関節、変形など複雑な症例の手術治療、さらにはごく単純な骨折の保存的治療まで、非常に幅広い領域をカバーしている病院と感じました。これだけの症例の治療を限られたスタッフでこなしている、さらにはそれを英文論文にまとめている、このactivityの高さに感銘を受けました。
 JK Oh教授からは将来的にMasquelet法の研究などでコラボしていこうと、身に余る、温かいお言葉を頂き、感激しました。ぜひ今回のfellowshipで頂いた貴重な機会を活かしていきたいと思います。

 最後に、今回のfellowshipでずっと一緒に行動した王先生に深く感謝します。ずぼらで何もしない私を甲斐甲斐しくお世話して下さり、誠にありがとうございました。
 また、この素晴らしい機会をお与え下さった日本骨折治療学会の皆様、長期不在を許し留守を守って下さった神戸大学整形外科の皆様に心より感謝し、報告を終わります。