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骨折の解説

骨盤骨折

松垣 亨(済生会福岡総合病院)

骨盤骨折には交通事故のように大きな外力外傷によって生じる骨盤の環状構造が破綻する骨盤輪骨折と、股関節の関節面を形成する寛骨臼が骨折する寛骨臼骨折と、主に成長期のスポーツ外傷によって生じる筋肉の付着部が裂離する裂離骨折があります。

【1】骨盤輪骨折

骨盤輪は左右の寛骨(腸骨、恥骨、坐骨が癒合したもの)と1個の仙骨から形成され(図1)、体重をささえる役割や骨盤内臓器を保護する役割があります。

図1:骨盤の部位名

図1:骨盤の部位名

骨盤輪骨折の急性期の治療においては、骨折部を簡易ベルトや創外固定で一時的に固定すると同時に、骨盤周囲に存在する血管や膀胱、直腸、尿道などの骨盤内臓器の損傷に対しても治療が必要となり、救命救急医、放射線科医、泌尿器科医、外科医などと連携をとって治療を行っていきます。

急性期の治療が終了すると骨折自体に対しての治療が必要となります。
骨盤輪の後方部分(仙骨~腸骨)の連続性が一部残っている部分不安定型骨折においては、2週程度のベッド上安静を行った後に車椅子移動を開始し、4週程度から徐々に松葉杖歩行を開始していきます。
一方骨盤輪の後方部分が完全に破綻している完全不安定型骨折においては通常手術療法が必要となり、骨折の部位によって各種固定法が選択されます。 腸骨が骨折している場合は主にプレートで固定し、仙腸関節脱臼や股関節脱臼骨折ではプレートかスクリューで固定します(図2)。

図2:仙腸関節脱臼に対するプレート固定

図2:仙腸関節脱臼に対するプレート固定

仙骨骨折では、プレート固定または脊椎インストルメントを利用した固定法が選択され(図3)、術後は1~2週より松葉杖歩行を開始します。 仙骨骨折においては神経損傷を合併することがあり、下肢の知覚低下・筋力低下、膀胱直腸障害がおきることがあります。 神経障害に対しては現在のところ有効な治療法はなく後遺症が残ることもあり、今後の検討課題とされています。

図3:仙骨骨折に対するプレート固定

図3:仙骨骨折に対するプレート固定

仙骨骨折に対する脊椎インストルメント固定

仙骨骨折に対する脊椎インストルメント固定

また近年高齢者が増加するに従い、骨粗鬆症のある高齢者に軽微な外傷で骨折する脆弱性(ぜいじゃくせい)骨折が増加しています。 この骨折に対してもベッド上の安静を2~4週間行い、その後徐々に離床して行っていくことが一般的ですが、転位(ずれ)が大きい場合や疼痛が強い場合には手術療法が選択されることがあります。 また骨癒合を促進するために副甲状腺ホルモンの注射を併用することがあります。

【2】寛骨臼骨折

寛骨臼は腸骨、恥骨、坐骨の結合部にあり、大腿骨骨頭を受けて股関節を形成します。 寛骨臼骨折は外力が大腿骨頭を介して伝わることにより発生しますが、車の座席に座っていて膝からの外力が加わった場合(ダッシュボード外傷)などでは股関節の後方脱臼を伴うことがあり、その場合は緊急で脱臼の整復を行う必要があります。
骨折自体に対しての治療法は、股関節の適合性が良くて骨折部の転位が小さい場合(通常2mm以内)は保存療法が選択され、2~4週の牽引を行った後に離床して車椅子移動を開始し、6週頃より松葉杖歩行を開始しますが、股関節の適合性が不良な場合や骨折部の転位が大きい場合は手術療法が選択されます。 手術は骨折型に応じて、前方、後方、またはその両方から進入して骨折部を整復してプレートで固定します。前方進入ではilioinguinal approach(腸骨鼠径アプローチ)が用いられることが多く、主に寛骨臼の前方成分(前壁、前柱)を整復固定する場合に使用され、また後方進入ではKocher-Langenbeck approachが用いられることが多く、主に寛骨臼の後方成分(後壁、後柱)を整復固定する場合に使用されます(図4)。

図4 前方進入によるプレート固定

図4 前方進入によるプレート固定

図4 後方進入によるプレート固定

後方進入によるプレート固定

術後は1週より車椅子移動を開始し、6週ころより松葉杖歩行を開始します。寛骨臼骨折は整復が不十分で関節面に不適合性を残せば変形性股関節症となり、疼痛や関節の可動域に制限が残り将来人工股関節置換術が必要となることがあるため、正確な整復と固定が必要となります。

【3】裂離骨折

成長期の骨盤には骨端線(成長軟骨)が残っているため、筋肉の急激な収縮により力学的に弱い骨端線の部分に裂離骨折がおきます(図5)。

1. 上前腸骨棘裂離骨折:短距離走、走り幅跳びなどで縫工筋や大腿筋膜張筋が急激に収縮することによりおきます(図6)。
2. 下前腸骨棘裂離骨折:短距離走やボールをけるときなどに大腿直筋が急激に収縮することによりおきます。
3. 坐骨結節裂離骨折:ハードル競技や走り幅跳びなどでハムストリングや大内転筋が急激に収縮したときにおきます。
4. 腸骨稜裂離骨折:内外腹斜筋の上方への牽引力と中殿筋の下方への牽引力が同時に作用することで発生します図6)。

治療は保存療法が一般的で、急性期に筋肉の緊張が和らぐ肢位で安静にして、2週ころより松葉杖歩行を開始していきます。骨片が大きい場合や、転位が大きい場合に手術療法を行うことがあり、その場合は全身麻酔で小さな皮膚切開を加えてスクリューで骨片を固定します。保存療法、手術療法のいずれの治療法でも、受傷後2~3ヶ月ころに骨癒合がおき、スポーツ復帰が可能となります。

図5 骨盤裂離骨折

図5 骨盤裂離骨折

図6 上前腸骨棘剥離骨折(11歳、男児)

図6 上前腸骨棘剥離骨折(11歳、男児)

図6 坐骨結節裂離骨折(17歳、男性)

坐骨結節裂離骨折(17歳、男性)

【4】最後に

よく「骨盤がゆがんでいますよ」と聞きますが、基本的に大きな外傷がない限り器質的に骨盤がゆがむことはあり得ません。 一般に骨盤骨折は生命や、大きな後遺症にかかわる外傷で、手術も非常に難易度が高く、また術中出血も多量となることもある為限られた施設でしか手術がなされていません。骨盤骨折の手術を受けられる際は、骨盤骨折の専門の医師がいる大学病院や基幹病院で手術をうけられることをお勧めします。

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2017年9月