全国スキー安全協議会の報告によりますと、全国47のスキー場から報告されたウィンタースポーツ外傷は、2019年2月の1カ月間(COVID-19の流行によりスキー場利用客が減少する以前)で3647件(スキー1599件・スノーボード2032件・ソリなどその他16件)と、スノーボードの受傷がスキーよりも多く報告されています。
同報告によりますと、スキーの受傷年代は10歳未満から70歳代まで各年代で大きな差がありませんが(6.8-18%)スノーボードの受傷者は10-30歳代で87.9%と若年層のケガが圧倒的に多いことがわかります
スキー外傷の受傷部位は膝が最も多く,肩,下腿,頭部,顔面の順に多く受傷しており、肩の49%が脱臼,下腿の46%が骨折と報告されています(表1)。スノーボード外傷では肩,手首,頭部,膝,腰の順に多く受傷しており、肩の53.8%が脱臼,手首の61.7%が骨折であったと報告されています(表2)。スキーでは下肢のケガが多いのに対し、スノーボードでは上肢のケガが多いことが特徴です。プロテクターやヘルメットの装着といったケガ予防が重要です。日本でもヘルメットの装着率が増えてきているものの,その装着率はスキーヤーが50%・スノーボーダーが20~30%程度との報告もあり、海外の90%を超える装着率に比べるとまだまだ低いのが現状です。
表1.スキー外傷
表2.スノーボード外傷
背骨の骨折や脱臼を脊椎損傷と言いますが、それに伴って脊椎の中を通っている神経(脊髄)を損傷されることを脊髄損傷と言います。神経が損傷されると麻痺を生じます。頚(頚髄)が損傷されると上下肢の麻痺が、背中から腰(胸髄・馬尾神経)が損傷されると下肢の麻痺が生じます。
ウィンタースポーツが盛んな地域で整形外科医をしていると、ジャンプ失敗による重傷外傷を診察する機会が少なくありません。前職場でフライトドクターをやっていた時代にはドクターヘリでスキー場に降り立つこともありました。
スポーツによる脊髄損傷の原因として、1992年の調査では水への飛び込みによるものが21.6%と最も多かったのですが、啓蒙活動が行われた結果、2002年の調査では0.88%と激減しました。一方で最も多くなった原因がスノーボードの26.5%、次いでスキーが23.9%であり、ウィンタースポーツで過半数を超える結果となっています。ちょうど2000年前後よりスキー場にジャンプ台などのパークが増えてきた時期と重なります。当時はまだヘルメットなどをつけていないスノーボーダー・スキーヤーが多数であったと記憶しています。
筆者の同門の先生の調査によると新潟県のある地域における2009年-2014年度までの6シーズンに、同地域の病院を受診したスキー・スノーボード外傷は2060例(スキー666例・スノーボード1394例)で、スノーボードが2/3を占めていました。スノーボードのうち78例(5.6%)が脊椎外傷であり、うち64例がジャンプの着地失敗でした。ケガの5.6%が脊椎外傷というのはかなり高い割合です。10例(13%)で受傷時に麻痺が生じていたと報告しています。スキー・スノーボード外傷に接する機会の多い整形外科医としては、若くして麻痺という後遺症が残ることが無いよう、自分のスキルに見合ったパークアイテムで十分に練習を重ね、ステップアップして安全に楽しんでほしいと心から願います。
2024年10月