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骨折の解説

骨折に対する外固定法について

今谷 潤也(岡山済生会総合病院 整形外科)

 けがをした時の治療の基本は,いためた部分の安静を保つことです。 その際にはさまざまな方法でいためた部分がグラグラしないように固定することが必要となります。 骨折した場合、鋼線やネジなどの金属で骨折した部分を体の中で直接固定する方法を内固定といい、ギプスなどで皮膚の外から固定する方法を外固定といいます。 骨折に対する外固定法にはギプス包帯法やギプス副子(ふくし)法、装具療法があります。 また装具療法の中には背骨(せぼね)や骨盤を固定する体幹装具、腕(うで)を固定する上肢装具や脚(あし)を固定する下肢装具などがあります。

Ⅰ)ギプス包帯法(図1)

 ギプス(Gips:独語)とは,もともと石膏(硫酸カルシウムの粉末)のことですが、最近では扱いやすいプラスチック製のギプスが多用されています。 これらは石膏もしくはプラスチックの原料が包帯状の繊維に付着しており、水につけると化学反応で数分程度で硬くなる特徴があります。 包帯状の繊維を身体に巻きつけるとそのまま固まって固定されるため、後述するギプス副子法よりもしっかりとした固定ができます。 その反面、神経麻痺や血行障害,関節が固まって動かなくなるなどの合併症が起こる可能性があり,注意が必要です。 なおギプス包帯は単にギプスと略されることが多いです。

図1:ギプス包帯法

図1:ギプス包帯法

 ギプスは装着する部位に応じて名称が異なり、上腕部(“にのうで”のあたり)から手部までのものを長上肢ギプス、前腕から手部までのものを短上肢ギプス、大腿(“太もも”のあたり)から足部までのものを長下肢ギプス、下腿(“ふくらはぎ”のあたり)から足部までのものを短下肢ギプスと呼びます。

 ギプスの装着で合併症が発生することがあります。 ギプスを装着後に固定した部分の腫脹(はれ)が強くなると血行障害、神経麻痺などの合併症の原因となります。 ひどい場合にはより広い範囲の血行が阻害され筋肉などの組織が壊死(部分的に死んでしまう)し,重篤な後遺症を残します。 したがってギプス装着後,少なくとも24時間は血行や運動機能の障害をチェックすることが大切です。 具体的にはギプスから出ている手の指やつま先の皮膚温や色調の変化や動きの低下、ギプス内の痛みの増強に注意します。 これらが認められた場合には、早急に医師に診てもらう必要があり、場合によってはギプスを除去するか、ギプスの全長にわたって縦方向に割れ目を入れて中の圧力を下げる処置(ギプスの切割)などが必要になります。

Ⅱ)ギプス副子(ふくし)法

 副子とは添え木のことであり、副木(ふくぼく)ともいわれます。これには2つの種類があり、ギプス包帯を必要な幅と長さにして折り重ね、身体のいためた部分に当てて硬化させたものをギプスシーネ(plaster slab)といい、全周性にギプス包帯を巻いて硬化させた後,これを半分に切ったものをギプスシャーレ(plaster shell)といいます。 ともにいためた部位にあてがい、体の形になじませて包帯により固定し、同部分を安定させます。

 ギプスシーネに似たものとして、石膏ではなく水に濡らすと硬くなるプラスチック製のものや、スポンジの中に針金の芯の入ったタイプなどがあり、それらをまとめてシーネと呼びます。 これについてもⅠ)と同様に、装着する部位に応じて名称が異なり、各々長上肢シーネ、短上肢シーネ、長下肢シーネ、短下肢シーネなどと呼びます。

Ⅲ)装具療法
①体幹装具(コルセット)

図2:腰仙椎装具(ダーメンコルセット)

図2:腰仙椎装具(ダーメンコルセット)

 腰痛や腰椎(こしの背骨)圧迫骨折などの際に腰に巻き、体を支える腰仙椎装具(ダーメンコルセット、Damenkorsett:独語,図2が有名です。 これには、本人の体型にあった形状のコルセットを個別に作成する採型コルセットと,サポーターのような既製品である簡易コルセットがあります。

図3:腰椎硬性コルセット

図3:腰椎硬性コルセット

 金属製の枠組みと強化プラスチックでできた硬性コルセット図3)は体幹をしっかり固定でき、より厳密な固定性を要する背骨の手術後の固定などに用いられます。

 頚椎カラー図4-a)は首に巻き頚部の安静を保つ外固定具で、頚部捻挫(むちうち症)などの外傷後や頚椎(首の背骨)疾患の手術後などに用いられます。
鎖骨骨折ではクラビクル(鎖骨)バンド図4-b),肋骨骨折ではバストバンド図4-c)と呼ばれるサポーター様の装具が用いられます。

図4:体幹装具 股装具 図4:体幹装具 膝装具 図4:体幹装具 短下肢装具
図4:体幹装具

a 頚椎カラー

b クラビクル(鎖骨)バンド

c バストバンド

 体幹装具は常用すると腹筋や背骨の周りの筋肉がやせてしまう可能性があるので、症状が軽快すればできるだけ早期に除去しますが,それと同時に担当医の指示に従い,腹筋や背筋のトレーニングを行うことも大切です。

②上肢装具(図5)

上肢装具では肩、肘、手、指などの関節に対して、各々特殊な装具があります。

図5:上肢装具 肘装具

図5:上肢装具 肘装具

③下肢装具(図6)

 下肢装具では股関節の障害のある際に用いる股装具、大腿から足首までを固定するための長下肢装具、膝靱帯損傷や半月板損傷などの各種膝関節障害に対して用いる膝装具、下腿から足首を固定できる短下肢装具や足装具などがあります。

図6:下肢装具 股装具 図6:下肢装具 膝装具 図6:下肢装具 短下肢装具
図6:下肢装具

股装具

膝装具

短下肢装具

2016年10月