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大腿骨頚部骨折と大腿骨転子部骨折 〜高齢者の脚の付け根の骨折〜

渡部欣忍(帝京大学医学部 整形外科)

高齢になって骨粗鬆症になると,若い時と比べて骨が脆弱になってしまいます.
高齢者が転倒などの比較的軽い外力で受傷する骨折を脆弱性骨折とよびます.

いろいろな部位に骨折は生じますが,大腿骨頚部骨折と大腿骨転子部骨折を受傷すると,歩行能力が損なわれてしまいます.
手術を行わないともう一度歩けるようになるのが難しいことが多いので,ほとんどの場合に手術的治療が必要になります.
以下に,大腿骨頚部骨折と大腿骨転子部骨折についてできるだけわかりやすく解説します. このホームページからは「患者さんのための大腿骨頚部・転子部骨折ガイドライン解説書」もダウンロードできますので,そちらも一緒に読んでいただければ,より理解を深められると思います.

どこが骨折するのでしょうか?

脚の付け根の関節を股関節(こかんせつ)と言います.股関節はふとももの骨(大腿骨:だいたいこつ)と骨盤とのつなぎ目の関節です.
大腿骨の一番上の部分は球形をしているので骨頭(こっとう)とよびます. そのすぐ下の細くなった部分を頚部(けいぶ)とよびます.人間の頭と頚の関係と同じです.
頚部はさらに太くでっぱった部分につながります.この太く出っ張った部分のことを転子部(てんしぶ)とよびます.
大腿骨頚部と大腿骨転子部の骨折のことを,それぞれ大腿骨頚部骨折(写真1),大腿骨転子部骨折(写真2)とよびます.

以下に,この2つの骨折について解説します.

写真1 左大腿骨頚部骨

写真1 左大腿骨頚部骨折

写真2 左大腿骨転子部骨折

写真2 左大腿骨転子部骨折

どうして高齢者に多いのでしょうか?

交通事故や転落事故などの大きな外力が加わった場合には,若い人でも大腿骨頚部骨折や大腿骨転子部骨折を起こすことがありますが,頻度はきわめて少ないです. 高齢者では,交通事故や転落事故などのような大きな衝撃を受けなくても,転倒などの比較的軽微な外力で骨折を起こしてしまいます. これは,骨粗鬆症によって骨の強度がすごく低下してしまったことが原因です.
骨粗鬆症の程度が強い場合には,骨折が先におこってから転倒することもあるのではないかと言われているくらいです.
また,寝たきりやそれに近い状態になっている人では,骨の強さはさらに弱くなっていて,おむつを交換する時に骨折をおこしてしまうこともまれではありません.

骨粗鬆症は女性に圧倒的に多い疾患です.なので,大腿骨頚部骨折や大腿骨転子部骨折は,高齢女性に好発します.
男女比は1:4くらいです.

受傷原因として最も多いのは転倒です.高齢になると運動能力が低下したり,視力障害を合併したりすることが転倒しやすくなることの一因です.

頚部骨折と転子部骨折で何か違いがあるのでしょうか?

大腿骨頚部骨折も大腿骨転子部骨折も,ともに脚の付け根の骨折ですから共通することは多いのですが,解剖学的な形状の違いのために治療法や予後(その後の見通し)が異なります.

関節は関節包という袋で覆われています. 大腿骨頚部は股関節包の内側にあるのに対して,大腿骨転子部は股関節包の外側にあります. 骨の表面には外骨膜があり,折れた骨が癒合する時に重要な役割をします.ところが,関節包の内側にある大腿骨頚部にはこの外骨膜が存在しないため, この部分の骨折は非常に癒合しにくいという特徴があります. 骨折が癒合しない状態を偽関節(ぎかんせつ)といいます.

また,大腿骨頚部や骨頭部は回旋動脈という細い動脈で栄養されています. 頚部骨折をおこした時にこの動脈が損傷を受けると血が流れなくなるので,骨頭の部分が壊死(えし)をおこして(骨頭壊死),最悪の場合には骨頭がつぶれてくることがあります.
これを遅発性骨頭陥没といいますが,この状態になると痛くて歩行できなくなります.
「遅発性」というのは,頚部骨折がいったん癒合した後にも骨頭がつぶれてくる場合があるという意味です.

以上をまとめると,大腿骨頚部骨折は骨癒合しにくいので偽関節となったり,骨頭部が壊死になりつぶれて遅発性骨頭陥没になったりするので,治療がとても難しい骨折といえます. これに対して大腿骨転子部は,周囲を血行のよい筋肉組織などに囲まれているので,転子部骨折は骨癒合しやすく偽関節になってしまう危険性は少なく,また,骨頭壊死にもなりにくい骨折です.
といっても,折れ方によっては偽関節になったり,非常に頻度は低いのですが骨頭壊死や遅発性骨頭陥没になったりすることがあります.

手術をしないと治らないのですか?

一般的には骨折の治療は,ギプスなどで骨折部を固定する保存的治療と,手術により治療する手術的治療の2つに分けられます.

麻酔管理法や手術方法が確立されていない時代には,多くの大腿骨頚部骨折や大腿骨転子部骨折は保存的に治療されていました.
その方法は,折れた脚を引っ張り続けてできるだけ骨折部をもとの形状に近づけて骨をくっつけようとする方法でした. 骨がくっつくまでの間は,動かすと痛いので消炎鎮痛処置を続けなければなりませんでした. このような治療を行っても,大腿骨頚部骨折では骨がくっつかないことが多く,大腿骨転子部骨折では骨はくっついても変形(曲がってくっつく)や脚短縮を後遺症として残すことが多く,機能的には全く満足できるものではありませんでした.
また,骨癒合には数ヵ月を要するので,その間はベッド上で安静が必要でした. 高齢者に長期臥床を強いると,褥創を作ってしまったり,肺炎を生じたりという合併症も発生しますし,寝たきりの状態になってしまうこともまれではありませんでした.

麻酔管理法や手術方法の進歩によって,今日,多くの大腿骨頚部骨折や大腿骨転子部骨折を手術的に治療することが可能になりました.そのため,患者さんの全身状態が手術に耐えられると予想できる場合には,大腿骨頚部骨折や大腿骨転子部骨折は手術によって治療する方が患者さんのためになると,多くの整形外科医は考えています.

手術方法にはどんなものがありますか?

まず,大腿骨頚部骨折の手術方法について説明します.
大腿骨頚部骨折に対しては,骨接合術(写真3)と人工骨頭置換術(写真4)という2つの治療法のいずれかが行われるのが普通です.
骨接合術というのは骨を金属などの器具で固定して,折れた部分をくっつける手術です.
人工骨頭置換術というのは,骨をくっつけるのはあきらめて骨折した頚部から骨頭までを切除して,そこを人工物(金属,セラミックス,ポリエチレンなどでできている)で置き換える手術です.
では,どちらの手術がよいのでしょうか?

まず,それぞれの手術の利点や欠点について説明します.大腿骨頚部骨折に対して骨接合術を行うと,前述した偽関節や骨頭壊死,遅発性骨頭陥没という合併症を生じる危険性があります.このような合併症を生じた場合には,もう一度手術を受けて骨折部を固定していた金属器具を抜去して,さらに人工骨頭置換術を行う必要があります.骨折した時に最初から人工骨頭置換術を行えば,偽関節や,骨頭壊死,遅発性骨頭陥没などの合併症はありません.しかし,人工骨頭置換術は骨接合術に比べて手術侵襲がやや大きいのが問題で,骨接合術に比べて手術時間が長く,輸血を要することが多く,術後に感染を生じる危険性も高いといわれています.また,人工骨頭置換術に特有な合併症として関節脱臼を術後経過中に生じることがあります.脱臼が生じた場合には,病院を受診して脱臼を整復してもらわなければなりません.さらに,長期的には挿入された人工骨頭が弛んでくる場合があり,新しい人工骨頭や人工股関節に再置換しなければならないという耐久性の問題もあります.これらのことを踏まえて,どちらの手術がいいのかを考えてみましょう.

大腿骨頚部骨折に対して,骨接合術と人工骨頭置換術のいずれを行うのがよいかという点に関しては,患者さんやご家族の好みも考慮して判断する必要はあるのですが,医学的には骨折部が大きくずれている場合には人工骨頭置換術,あまりずれていない場合には骨接合術を選択するのがよいのではないかと考えられています.というのは,骨接合術で治療した後に生じる合併症(偽関節,骨頭壊死,遅発性骨頭陥没など)は,骨折部のずれの程度に影響を受けることが過去の研究で示されているからです.すなわち,ずれが少ない大腿骨頚部骨折に対しては侵襲の少ない骨接合術でよい治療成績が得られる可能性が高いのですが,ずれが大きい大腿骨頚部骨折に対しては骨接合術を行うと20〜30%程度の率で合併症に対する再手術が避けられないのです.高齢者の平均余命は若年者や壮年者に比べて短いので,人工骨頭の耐久性はあまり問題になりません.したがって,ずれの大きい大腿骨頚部骨折では,再手術の危険性を少しでも回避するために人工骨頭置換術を選択する場合が多いのです.

写真3 左大腿骨頚部骨折に対する骨接合術

写真3 左大腿骨頚部骨折に対する骨接合術

写真4 左大腿骨頚部骨折に対する人工骨頭置換術

写真4 左大腿骨頚部骨折に対する人工骨頭置換術

次に,大腿骨転子部骨折の手術方法について説明します.

大腿骨転子部骨折に対しては,骨接合術が一般的に行われます. 大腿骨転子部骨折は非常に骨癒合しやすい骨折です. したがって,ずれた骨折部をできるだけもとの形状に近づけて,金属の器具で固定する手術が一般的なのです.

ラグスクリューという太いネジ(あるいはこれに類するもの)を大腿骨の外側部分から骨頭内に入れて,これを大腿骨の外側に当てたプレート(板)や大腿骨の管腔(髄腔)内に差し込んだ太いネイル(髄内釘)で支える固定材料(写真5写真6)を用いるのが標準的な固定方法です.
これとは別にしなりがある細長い棒を膝の近くから大腿骨の髄腔内に数本挿入する手術方法を採用している施設もあります.

大腿骨転子部骨折をこれらの金属製の器具で固定した場合,多くは問題なく骨癒合します.
ただし,骨粗鬆症の程度がひどかったり,折れ方が悪かったりした場合には,もとの形状にもどした骨が再びずれたり(整復位損失),金属の強さに骨が負けて金属が骨から飛び出てしまう(カットアウト)場合があります.
このような状況になった場合,多くは何らかの再手術を必要とします.

写真5 左大腿骨転子部骨折に対する骨接合術①

写真5 左大腿骨転子部骨折に対する骨接合術①

写真6 右大腿骨転子部骨折に対する骨接合術②

写真6 右大腿骨転子部骨折に対する骨接合術②

大腿骨頚部骨折や大腿骨転子部骨折のリハビリテーションは?

そもそもこれらの骨折を手術的に治療する目的は,患者さんをもう一度歩けるようにして,寝たきりにならないようにすることです.私たち整形外科医は,看護師や理学療法士を中心とするコメディカルと協力して,できるだけ怪我をする前の歩行能力に戻したいと切望しています.ご本人はもとより,患者さんのご家族も同じように思われていることがほとんどです.

下肢骨折の術後のリハビリテーションは,①ベッド上坐位保持訓練,②車いすへの移乗,③立位保持訓練,④平行棒内歩行訓練,⑤歩行器歩行訓練,⑥松葉杖歩行訓練,⑦T杖歩行訓練のように進めるのが普通で,この間に骨折した骨に隣接する関節を動かす訓練や筋力トレーニングを並行して行います.
ただし,高齢者では松葉杖歩行訓練が技術的に難しいことが多く,高齢者の股関節周囲骨折のリハビリテーションでは歩行器からT杖歩行に移行するか,その間に手を引いての歩行訓練を挟むのが普通です.

欧米では,大腿骨頚部骨折や大腿骨転子部骨折の手術を受けた患者さんは,術後5〜10日で自宅または施設へ退院します.
日本でも急性期病院の入院期間はかなり短縮されてきましたが,20〜40日程度の入院期間になっています.
この理由は欧米では,①住宅が一般的に広く段差もないため,歩行器や車いすが使用しやすいこと,②理学療法士・作業療法士・看護師の訪問システムが充実しており,早期退院しても自宅で十分な看護やリハビリテーションを受けられることなどが挙げられます.
しかし,最も大きな要因は保険でカバーされる医療が限られているため制度上急性期病院での長期入院が実質的に不可能であることがあげられます. 日本でも,医療保険の費用支払いシステムを調整することで,急性期病院での長期入院は実質的に難しくなってきました. 国の施策として,手術を行う病院と手術後のリハビリテーションを行う病院を機能分担するような仕組みができあがっています.
したがって,手術をした担当医が「術後は他の病院へ転院してリハビリテーションを受けてください.」というような説明をする場合が多くなりました.
これは担当医が意地悪をして転院させようとしているのではなく,現在の医療システム上,仕方のないことなのです.

大腿骨頚部骨折や大腿骨転子部骨折の予後は?

まず,生命予後から説明します.
大腿骨頚部骨折および大腿骨転子部骨折後の死亡率は,欧米では11〜35%程度と報告されていますが,日本では10%以下で欧米に比べて良好です. より高齢の人,入院期間の長い人,受傷前の歩行能力が低い人,認知症のある人,男性,心臓疾患のある人などで死亡率が高くなっています.
全身状態が手術に耐えられると考えて私たちは手術を勧めて実際に手術を行います.したがって,手術中に患者さんが亡くなられる事は極めてまれです. しかし,術後には,精神障害,肺炎,循環器疾患などの合併症はかなり高い頻度で発生します.術後早期(入院中)の死亡例の原因としては肺炎が最も多いといわれています.

次ぎに機能予後について説明します.
大腿骨頚部骨折および大腿骨転子部骨折を受傷された患者さんに対しては,早期からの起立・歩行をめざした訓練が必要であり,手術翌日からベッド上での坐位訓練が行われるのが普通です.
歩行能力の回復には受傷前の歩行能力と年齢が大きく影響すると信じられています.受傷前によく歩けていた人は,より回復しやすいということです.
しかしながら,すべての患者さんが元通りの歩行能力を獲得できるかといえば,残念ながら答えは「いいえ」です.大腿骨頚部骨折や大腿骨転子部骨折では,受傷前に屋外活動を一人で行うことが可能であった患者さんでも,半年から1年後に元通りに近い歩行能力を獲得できるのは,全体の50%程度にすぎません.本人のリハビリテーションに対する努力と,家族の励ましが重要です.

大腿骨頚部骨折や大腿骨転子部骨折を受傷された患者さんは,反対側の骨折を生じるリスクが高いことがわかっています. したがって,受傷された患者さんには骨粗鬆症の治療をする方が理論的にはよいはずです. 骨粗鬆症の治療法としては骨密度を上げる薬物療法が中心になっています. ただし,骨折を起こすリスクは骨密度低下だけでなく,転倒しやすさなど複雑な因子に関連します.
したがって,骨粗鬆症に対する薬物療法がどの程度まで反対側の骨折を予防するのに有効かに関してはこれから研究していく必要のある課題です.

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