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骨折の解説

橈骨(とうこつ)遠位端骨折

多田 薫(金沢大学病院 整形外科)

「橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)」とは、手くびの部分で起こる骨折です。「橈骨(とうこつ)」は前腕にある2本の骨のうち、親指側に位置する骨であり、手くびを支える重要な役割を果たしています(図1)。この骨折は特に中高年以降の高齢者に多く発生しますが、若年者であってもスポーツ中の転倒や高所からの転落などで発生することがあります。また、橈骨遠位端骨折は骨がもろくなる「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)」を背景としていることが多く、上腕骨近位部骨折、脊椎圧迫骨折、大腿骨近位部骨折とならび、骨粗鬆症に関連する「4大骨折」のひとつとして知られています。そのため、橈骨遠位端骨折を受傷された場合は骨折の治療に加え、骨粗鬆症の検査を受けることをお勧めします。

図1 親指側の骨が「橈骨」で、小指側の骨が「尺骨」です

橈骨遠位端骨折は転倒して地面に手をついたときに発生するため、特に冬場など天気が悪く地面がすべりやすい際に発生数が増えることが知られています。症状としては手くびや前腕部の強い痛みや腫れ、変形が出現します。腫れや変形が強い場合は手指のしびれも出現することがあります。これらの症状があった場合は、速やかに整形外科を受診して下さい。

整形外科ではレントゲン検査(図2,3,4)やCT検査(図5)などを行ってどのような骨折なのかを診断し、治療方針を立てます。橈骨遠位端骨折の治療は、骨折の種類やずれの有無によって異なります。

図2 手の甲側に骨がずれている、「コーレス骨折」と呼ばれる骨折です

図3 手のひら側に骨がずれている、「スミス骨折」と呼ばれる骨折です

図4 骨折が関節に及んでいる、「バートン骨折」と呼ばれる骨折です

図5 骨折について詳しく評価するため、レントゲン検査に加えてCT検査を行うことがあります

骨がずれていない、ずれが軽度である場合

ギプス(図6)や装具(図7)を用いて手関節部を固定する方法が行われています。固定期間は約4週間です。固定期間中は骨がずれていないことを確認するため、定期的な通院が必要となります。特に高齢者では次第に骨がずれることがあるため、慎重な経過観察が必要です。

図6 ギプス

図7 装具

骨がずれている場合や骨折が関節に及んでいる場合

骨の変形や手くびの動かしにくさなどの後遺症を生じる可能性が高いため、手術が行われることが多いです。手術はブロック麻酔や全身麻酔を行い、手のひら側の前腕を数cm切開して骨を正しい位置に戻し、金属のプレートやスクリューなどを用いて固定します(図8,9)。
手術を行った場合は約1~2週間程度で日常生活動作が可能となります。重労働やスポーツへの復帰は約2か月以降となることが一般的です。なお、金属プレートは手の違和感などを生じることがあるため、必要に応じて後日取り除くことがあります(図10)。
近年は骨折の種類に応じた様々な手術器具が開発されており、より正確で安全な手術が行えるようになっています(図11)。

手術を行わなかった場合も、手術を行った場合も、手くびや手指のリハビリが必要です(図12,13)。骨折の種類や骨の状態によってリハビリの内容は変わりますので、主治医の先生とよく相談して下さい。

図8 高所からの転落で受傷された例です 手の甲側に骨がずれている、
「コーレス骨折」と呼ばれる骨折を認めます

図9 骨を正しい位置に戻し、金属のプレートやスクリューなどを用いて固定しました

図10 術後約半年で金属を取り除く手術を行いました

図11 骨折の種類に応じて、様々な金属プレートが用いられています

図12 手指のリハビリでは、これらのような運動が行われています

図13 手くびのリハビリでは、これらのような運動が行われています

橈骨遠位端骨折の合併症

親指を伸ばす「長母指伸筋腱(ちょうぼししんきんけん)」が骨折部で損傷し、骨折してから数週間後に親指を伸ばせなくなることがあります(図14)。また、骨がずれたままで治癒した場合、手くびの動かしにくさや運動時の痛みが生じやすく、手指がしびれる「手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)」を発生することもあります(図15)。

図14 左手の長母指伸筋腱を損傷し、親指を伸ばすことができなくなっています

図15 骨がずれたまま治癒してしまったため、
手くびの動かしにくさや運動時の痛みに加え、手指のしびれも認められました

2025年12月