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インプラント周囲骨折

野田 知之(川崎医科大学運動器外傷・スポーツ整形外科学 / 川崎医科大学総合医療センター整形外科)

はじめに

高齢化社会を迎え、膝や股関節の変形・痛みのため日常生活に支障をきたして人工関節の手術を受ける患者さんが年々増えています。代表的な人工関節手術として、股(太ももの付け根)と膝の人工関節置換術が挙げられますが、両関節とも安定した長期成績を背景に現在では広く行われるようになりました。2023年にはそれぞれ約8万件を超える人工股関節置換術(THA)と人工膝関節置換術(TKA)が我が国で行われました。
この手術は人工関節を骨に固定して安定させるわけですが、人工関節手術の増加に伴って人工関節の周囲で骨折を起こす患者さんも急増傾向にあります(図1a図2a)。さらには高齢者に頻発する大腿骨頚部骨折(太ももの付け根の骨折)においても、大腿骨のあたま(大腿骨頭)を人工物に置換する手術(人工骨頭置換術)が多く行われるようになっており、人工骨頭周囲骨折も急増傾向にあります(図3a)。
またこれらの人工関節置換術や人工骨頭置換術を受けて長期間経過してインプラントがゆるんだ患者さんにも多く発生するため治療が難しい骨折の一つです。

骨折の特徴、診断

骨折が起こる部位は、人工股関節、人工膝関節、大腿人工骨頭いずれにおいても大腿骨(太ももの骨)が圧倒的に多く、上肢では頻度は少ないものの、上腕骨(人工肩関節や人工肘関節の手術後)に起こることがあります。主な症状は転倒などに引き続いて起こる局所の痛み、腫れ、変形と痛みに伴って患肢を動かせなくなる、歩けなくなるなどです。インプラントがゆるんでいる患者さんでは骨折する前にも同部位の痛みを訴えている場合があります。骨折の診断は主にX線撮影にてなされます。ずれが小さくてX線写真で分かりにくい場合や、骨折範囲や人工関節のゆるみの有無を詳しく評価するためにCT検査を追加することもあります。
骨折に対しては骨をつける治療をしますが、インプラントがゆるんでいる場合はインプラントの入れ替え(再置換術)を検討します。インプラントのゆるみには、骨折によるインプラントのゆるみと長期間の使用によるゆるみの主に2パターンがあります。
さらにはインプラント周囲骨折の患者さんは高齢で、他の内科的疾患を合併していることも多く、これら内科的疾患に対する評価や治療も併せて行う必要があります。再置換術は出血や手術時間などに関しても大きな手術となるため、患者さんの全身状態とインプラントのゆるみ具合の両方を考慮して治療法を決定する必要があります。

治療法

上腕骨の骨折の一部やズレの小さい骨折の場合は保存的に治療することもありますが、多くの患者さんで手術治療が選択されます。高齢の患者さんでは手術自体にリスクも伴いますが、手術治療しない場合は長期間の寝たきりによって肺炎や褥瘡など命に関わる合併症の危険が高まります。
手術の方法は骨折部位や骨の状態、そして既存のインプラントのゆるみの有無や程度、全身状態によって決まります。基本的にはインプラントがゆるんでいる場合、人工関節再置換術(入れ替え手術)を行い、ゆるんだ大腿骨インプラントを長くて新しいインプラントに置き換えるのが標準的です(図1b)。プレートやワイヤーなどにより骨をつける手術を再置換術と併せて行う場合もあります(図1b)。またインプラントがゆるんでいる患者さんでも全身状態が良くない場合やゆるみの程度が軽い場合は、骨をつける手術だけを行うこともあります。 インプラントが安定している場合には、骨折部を金属で固定する骨接合術を行います。固定方法としては金属プレートをスクリューで骨に固定する方法が一般的です。骨の周囲をステンレス製のワイヤーやケーブルで締めて固定を補強することもあります。
また人工関節がゆるんでいるケースでも全身状態が悪い場合やゆるみが軽度の場合には、インプラントを入れ替えず骨をつける手術のみで対応することもあります。逆にインプラントが安定していると判断されたケースでも、骨の欠損が大きい場合など状況によっては再置換術が検討されます。骨折部の粉砕や、人工関節のゆるみに伴って骨欠損が大きい場合には、骨の癒合を促進するため骨盤(腸骨)などから骨移植を行うこともあります。これらの治療法の選択はあくまで一般的な目安であり、病院や患者さん個々の状況によっても変わります。担当医と十分に相談して最適な方法を決定することが重要です。

リハビリテーション

手術翌日から痛みに応じて膝や股関節を動かす練習(関節可動域訓練)や筋力強化訓練を行うのが理想です。ただし骨粗鬆が強く骨折部の固定力に不安が残る場合などは手術後2-3週待機してから、それらの訓練を開始する場合もあります。骨折した足に少しずつ体重をかけていく歩行訓練は、再置換術の症例ですぐに行われる場合もありますが、一般的には骨のつき具合を確認しながら手術後4-6週間経過してから開始します。

合併症、後遺症

本骨折に対する手術は、すでに初回手術を受けている部位への再手術であり、骨のつきが悪いなどの理由により、さらなる手術が必要になる可能性があります。また、再手術に至らなくても、受傷前に比べて歩行能力が低下したり、股関節や膝関節の可動域が制限されるといった機能面の後遺症が残ることがあります。

退院後の注意点

骨をつける手術をした場合は、骨のつきが悪い場合もあるので、完全に骨がつくのが確認されるまで定期的にX線撮影し経過を追う必要があります。また再置換術、骨をつける手術いずれの場合も、人工関節のゆるみに対する定期的な外来受診が、ゆるみの早期発見などの観点からも重要です。
本骨折は、大腿骨近位部骨折と同様に患者さんの生命予後にも影響する骨折であり、骨密度評価や骨粗鬆症治療を積極的に行い、転倒予防策を講じることが必要です。

図1 70歳代女性:人工骨頭置換術後のインプラント周囲骨折、ゆるみあり(インプラントが沈下している)

図1 70歳代女性:人工骨頭置換術後のインプラント周囲骨折、ゆるみあり
(インプラントが沈下している)
a 転倒後  b 手術後(再置換術にプレート固定を追加)

図2 70歳代女性:人工膝関節置換術後のインプラント周囲骨折、ゆるみなし

図2 70歳代女性:人工膝関節置換術後のインプラント周囲骨折、ゆるみなし
a 転倒後  b 手術後(プレートによる骨をつける手術)

図3 80歳代女性:人工骨頭置換術後のインプラント周囲骨折、ゆるみなし

図3 80歳代女性:人工骨頭置換術後のインプラント周囲骨折、ゆるみなし
a 転倒後  b 手術後(プレートによる骨をつける手術)

2025年12月