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人工関節周囲骨折

野田 知之(岡山大学医学部 整形外科)

はじめに

高齢化社会を迎え、関節の変形・痛みのため日常生活に支障をきたして人工関節の手術を受ける患者さんが増加しています。 代表的な人工関節手術として、股(太ももの付け根)と膝の人工関節置換術が挙げられますが、両関節とも安定した長期成績を背景に現在では広く行われるようになりました。 2010年には約4万4千件の人工股関節置換術と約6万9千件の人工膝関節置換術が我が国で行われたと推定されています。

この手術は人工関節を骨に固定して安定させるわけですが、人工関節手術の増加に伴って人工関節の周囲で骨折を起こす患者さんも急増傾向にあります(図1a図2)。
さらには高齢者に頻発する大腿骨頚部骨折(太ももの付け根の骨折)においても、大腿骨のあたま(大腿骨頭)を人工物に置換する手術(人工骨頭置換術)が多く行われるようになっており、人工骨頭周囲骨折も急増傾向にあります(図3a)。
またこれらの人工関節置換術や人工骨頭置換術を受けて長期間が経ち人工関節がゆるんだ患者さんにも多く発生するため治療が難しい骨折です。

骨折の特徴、診断

骨折が起こる部位は、人工股関節、人工膝関節、大腿人工骨頭いずれにおいても大腿骨(太ももの骨)が圧倒的に多く、上肢では上腕骨(人工肩関節や人工肘関節の手術後)に起こります。
症状は転倒などに引き続いて起こる局所の痛み、腫れ、変形と痛みに伴ってけがをした腕や太もも、あしを動かせなくなる、歩けなくなるなどです。 人工関節がゆるんでいる患者さんでは骨折の前にも同部位の痛みを訴えている場合があります。 骨折の診断はX線撮影にてなされます。ずれが小さくてX線写真で分かりにくい骨折や骨折範囲がどこまで及んでいるかの確認にはCTも用いられます。

これらの画像検査では人工関節のゆるみの有無も詳しく評価する必要があります。 骨折に対しては骨をつける治療をしますが、人工関節がゆるんでいる場合は人工関節の入れ替え(再置換術)など他の治療も検討しなければならないからです。
人工関節のゆるみには、骨折による人工関節のゆるみ、長期間の使用によるゆるみ、感染などがあります。

さらには人工関節周囲骨折の患者さんは高齢で、他の内科的疾患を合併していることも多く、これら内科的疾患に対する評価や治療も併せて行う必要があります。再置換術は出血や手術時間などに関しても大きな手術となるため、患者さんの全身状態と人工関節のゆるみ具合の両方を考慮して治療法を決定する必要があります。

治療法

上腕骨の骨折の一部やズレの小さい骨折の場合は必ずしも手術しなくていいことがありますが、多くの患者さんで手術が必要です。高齢の患者さんが多いため手術には多少の危険を伴いますが、例えば大腿骨を手術なしで治療する場合は長期間のベッド上安静のために寝たきりになり、肺炎や床ずれなどを起こす危険性が高くなります。

手術の方法は前にも触れたように、もともと入っている人工関節のゆるみの有無やゆるみの程度、全身状態によって選択されます。 基本的に人工関節がゆるんでいる場合には人工関節の再置換術が選択されます。 プレートやワイヤーなどにより骨をつける手術を再置換術と併せて行う場合もあります(図1b)。
また人工関節がゆるんでいる患者さんでも全身状態が良くない場合やゆるみの程度が軽い場合は、骨をつける手術だけを行うこともあります。 人工関節がゆるんでいない場合はワイヤーやプレートを用いて骨をつける手術を行います(図2b図3b)。

骨折部が粉砕していたり、人工関節のゆるみによって骨が不足している場合には、骨のつきを良くするために腰の骨などから自分の骨を移植する場合もあります。
なお、あくまでこれらの治療法は一般的な目安であり病院によって異なる可能性もありますので、担当の先生とよくご相談ください。

リハビリテーション

手術翌日から痛みに応じて股や膝の関節を動かす練習(関節可動域訓練)や筋力強化訓練を行うのが理想的です。
しかしながら骨粗鬆症が強く骨折部の固定力に不安が残る場合などは手術後2-3週待機してからそれらの訓練を開始する場合もあります。
骨折した足に少しずつ体重をかけていく歩行訓練は、再置換術の一部の症例ですぐに行われる場合もありますが、一般的には骨のつき具合を確認しながら手術後6-8週間経過してから開始します。

合併症、後遺症

すでに人工関節を入れるときに手術を受けている付近への手術ということになりますので、骨のつきが悪く再手術が必要になる可能性があります。
またリハビリの頑張り具合によっても影響を受けますが、歩行能力がケガをする前より低下し、股や膝の可動域が悪くなる場合もあります。

退院後の注意点

骨をつける手術をした場合は、骨のつきが悪い場合もあるので、完全に骨がつくのが確認されるまで定期的にX線撮影を受ける必要があります。
また再置換術、骨をつける手術いずれの場合も、人工関節のゆるみに対する定期的な外来受診が、ゆるみの早期発見などの観点からも重要です。

図1 70歳代女性:人工股関節置換術後の人工関節周囲骨折、人工関節のかなりの部分に骨折が及んだことによるゆるみあり

図1 70歳代女性:人工股関節置換術後の人工関節周囲骨折、ゆるみあり
(人工関節のかなりの部分に骨折が及んだことによるゆるみ)
a 転倒後  b 手術後(再置換術にプレート固定を追加)

図2 70歳代女性:人工膝関節置換術後の人工関節周囲骨折、ゆるみなし

図2 70歳代女性:人工膝関節置換術後の人工関節周囲骨折、ゆるみなし
a 転倒後  b 手術後(プレートによる骨をつける手術)

図3 80歳代男性:人工骨頭置換術後の人工関節周囲骨折、ゆるみなし

図3 80歳代男性:人工骨頭置換術後の人工関節周囲骨折、ゆるみなし
a 転倒後  b 手術後(プレートによる骨をつける手術)

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