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骨折の解説

舟状骨骨折 -20歳代の人が手をついたら舟状骨骨折を疑え-

矢島 弘嗣(市立奈良病院)

転倒により手のひらを伸展位で地面につくと、ふつうは橈骨遠位端骨折(コーレス骨折)がおこります。
ただし、10代後半から20代の青年が強くこの状態(手関節が過伸展位)で転倒すると、舟状骨が骨折する事があります。
舟状骨とは手首の中にある小さな骨の1つで、ちょうど船の形をしているのでこのような名前が付けられています。

スポーツによる受傷が半数近くを占めているのも本骨折の特徴の1つであります。
橈骨遠位端骨折の時のように腫れが強くなく、骨折のずれが小さい場合は疼痛もあまり強くありません。
そして病院でレントゲン検査を受けても骨折が見つからないときがしばしばあります。
もしも2~4週間後に再検査すれば、レントゲンに骨折線が現れて診断がつくといった患者さんも多くみられます。
そこで受傷したときに舟状骨骨折を疑うのは、「解剖学的嗅ぎタバコ入れ(図1))」に圧痛がある場合です。
もしもレントゲンで骨折線が見えないときでも、この部位に圧痛があれば本骨折を疑い、ギプスで固定を行うのが無難です。
そして2~4週後にもう一度レントゲン検査をして、その時に何もなければただの捻挫であったと診断できます。

図1

図1.解剖学的嗅ぎタバコ入れ。長母指伸筋腱と短母指伸筋腱にかこまれた部位。舟状骨骨折の際、この部位に圧痛がある。

しかしながら最近はいろいろな診断機器が開発され、そのなかでもMRIを用いれば、レントゲンで骨折線が認められないような患者さんでも、確実に本骨折を診断することができるようになってきています(図2)。

図2a

図2a.27歳、男性。受傷後4日目のレントゲン像。骨折線は不明瞭である。

図2b

図2b.同日のMRI像。腰部での骨折が明らかである。

治療は保存療法と手術療法があります。
舟状骨骨折は骨がつきにくい骨折の代表格の1つです。
とくに近位部での骨折は、近位骨片が壊死(血行障害により骨が死ぬこと)に陥りやすいために、骨癒合まで3ヵ月近くを要することもありますし、ギプス固定を長期間行っても骨癒合が得られない場合も少なからずみられます。
最近は固定用のスクリューがいろいろと開発され、ずれているような骨折や壊死になりやすいような骨折はもちろん、今までならギプス固定で治療したようなタイプの骨折に対しても、積極的に非侵襲的な手術(1cm程切開して、レントゲン透視下にスクリューを刺入する)が行われるようになってきています(図3)。

図3.

図3.2つのねじ山を持ったヘッドレススクリュー(締めていくと圧迫がかかる)による骨折の治療

手術をすることによりギプス固定が不要になることから、スポーツや重労働は無理であっても、タイプ、食事などの日常生活をはじめ、車の運転も少し慣れば行うことができます。

1ヵ月も2ヵ月もギプスを巻くよりも、外来で行える簡単な手術によって骨折による日常生活の制限を最小限にとどめることができるために、若い患者さんには積極的に勧めて良い治療方法です。
またお年寄りの患者さんが長い間ギプス固定を行うと、手の拘縮(手首が動きにくくなる)が生じやすく、そしてギプスをはずしてからも長い間リハビリが必要なこともあるので、高齢者に対しても手術が勧められます。

2009年7月